ハイテク紛争の時代における欺瞞とカモフラージュ
カモフラージュ、隠蔽、欺瞞は、まさに今ルネサンス(復活)の最中にあり、現代において最も重要な軍事技術の一つとなりつつあります。さまざまなリソースが限定される中、最新のセンサーが戦場を照らすようになり、長射程距離兵器が数メートル以内の精度を持つようになった今、敵に発見されず、敵を欺くことができる者だけが勝利を手にすることができます。
これらは、最も古く、最も一般的な戦争戦術の1つです。顔に色を塗った兵士、迷彩服、枝や葉でカモフラージュされた戦車は、メディアや映画でもよく目にするイメージです。ギリシャ神話に登場するトロイの木馬は、最もよく知られた欺瞞作戦の一つだと言えるでしょう。また、第二次世界大戦では米軍がこの戦術を取り入れて、いわゆる「幽霊部隊」とはりぼての戦車でドイツ国防軍を欺きました。その当時で既に有用性が証明されていた戦術が、現代の戦争においてますます勝敗を分けるような、決定的な役割を果たすようになってきています。
Saab Barracudaの戦略・事業開発担当ディレクターであるNiklas Ålundは、次のように説明しています。「技術の急速な進歩により、軍隊はカモフラージュシステムや欺瞞作戦がなくては敵に近づくことすら困難になっています。成功を収めるには、武器であれ兵員であれ、膨大な量のリソースが必要です。今日の紛争においては、カモフラージュや隠蔽、欺瞞を使いこなせなければ勝利することはほぼ不可能です。そして、この状況がすぐに変わることはないでしょう」。兵士にとって、カモフラージュは何よりも自身の安全の確保を意味します。
時代の変化
何十年にもわたり、大国の軍隊はその大きさ、強さ、火力に頼ることができていた一方、スウェーデンのような小国は早くから他の方法や戦術を用いることを余儀なくされていました。その意味において、スウェーデンの防衛企業であるSaabが、Barracudaブランドの下、1950年代からカモフラージュソリューションを開発してきたことは、当然のなりゆきだったと言えるでしょう。加えて、Saabは、1960年代からNATOのシグネチャーマネジメントの要件を開発するグループの一員でもありました。今日現在、Saabは60か国以上のお客様に製品を供給し、世界市場をリードしています。
近年における衛星、ドローン、センサー技術の飛躍的な成長により、戦場はますます透明化し、CCD(迷彩、隠蔽、欺瞞)システムは新たな時代へ突入しています。ドローンなどの先端技術も安価になり、最先端の光学或いはサーマルセンサーを装備できるようになりました。同時に、商業衛星が地表のもっとも離れた場所の詳細画像を、短時間で提供できるようになっています。軍隊がこの監視データを独自の偵察による画像で補えば、相手の作戦を極めて正確に把握できるようになります。兵士にとっては、厳重にカモフラージュされた車両や営舎で守られているだけでは、もう十分とは言えません。また、個人のカモフラージュがなければ、1名の兵士から部隊全体の位置情報が暴かれてしまう可能性もあります。そのため、このような進展が大規模な軍隊にさえ戦略の適応を促していることは驚くには値しません。「2022年末、米国陸軍は新しいFM 3-0ドクトリンを発表しました。その中でカモフラージュと欺瞞は優れた役割を担い、指導原則となっています」と、Ålundは述べています。
マルチスペクトルシグネチャーの受動性
では、カモフラージュの仕組みはどのようになっているのでしょうか。可視光線の範囲を超えて、センサーが検知できる物理的要素は多岐にわたります。このため、軍事的な文脈におけるカモフラージュは、シグネチャーの低減とも呼ばれます。したがって、CCD(迷彩、隠蔽、欺瞞)システムの開発時には、電磁スペクトル全体を考慮する必要があります。これには、紫外線、可視光線、近赤外線信号範囲のほか、短波赤外線、熱赤外線、レーダー信号範囲が含まれます。「カモフラージュシステムでは、放射あるいは反射がないよう徹底しなければなりません。しかし、マルチスペクトルのシグネチャに関する受動性もそれと同じかそれ以上に重要です。受動性とはつまり、放射を適切に吸収するということです。この機能により、カモフラージュされた物体はそれぞれの環境に溶け込み、すぐ近くのセンサーでなければ検出や識別ができなくなります」と、Ålundは説明します。兵士向けのBarracuda個人用カモフラージュポンチョは、すでに熱シグネチャの70%を低減します。また、立体的な装飾が兵士の輪郭を乱すことによって視覚的なカモフラージュ効果を高めるため、敵は交戦に際し接近せざるを得なくなります。
Saab Barracudaのサーマルネットとカモフラージュポンチョは、どちらも600g~1.5kg未満と軽量です。これは、兵士が操作性を確保するための重要な要素です。サーマルネットは不要時には小さく折りたたんで携行可能なバッグに収納可能であり、またカモフラージュポンチョは戦闘服のような着心地の良いデザインですが、両面リバーシブルデザインのカモフラージュネットで兵士と個人装備の両方を柔らかくカバーすることができます。Barracudaシステムは、非常に多用途であり、昼夜を問わず変化する状況に確実に適応することが可能です。ネットとポンチョは高度にカスタマイズが可能であり、北極のような複雑な環境を含め、あらゆる環境にシームレスに溶け込みます。「兵士の偽装は、色彩の観点で環境に溶け込むだけでなく、環境と同じ温度を模倣しなければなりません。極寒や嵐、そして外部環境と車両および人間の間の、大きな温度差を補正しなければなりません」と、Niklas Ålundは述べています。サーマルネットは、兵士の行動範囲を制限することなく、兵士を守る最大の手段なのです。
決定的な数秒間
CCD機能は、作戦の準備から攻撃、防御に至るあらゆる段階で必要とされます。「敵に自分の居場所を知られることなく、カモフラージュネットの下で周囲や敵を観察し、攻撃計画を立てることができます。特に接近戦では、このことが決定的な数秒間の余裕をもたらしてくれます」と、Ålundは説明し、さらに、次のように付け加えています。「歴史を概観すれば、およそ9割の場合について、この部分で主導権を握り、最小限のアドバンテージで敵の意思決定サイクルをコントロールした者が勝者だということは明らかです」。
カモフラージュや欺瞞の有用性を把握しておけば、自軍をより効果的に守れるだけでなく、他の分野においては優れているかもしれない相手を、有効に牽制することもできます。この点は既に現下のウクライナ紛争においても証明されており、現地ではロシア空軍を欺くためにダミー戦車が使用されているとの報道もあります。このようなデコイを製造している企業は人造絹糸などの素材を使用しており、そのためダミー戦車の総重量はわずか100kg程度となっています。このダミーを操作する兵士は4人程度で十分であり、開梱して展開するまでの所要時間は10分程です。 「もちろん、間近で見れば本物の戦車でないことは明らかですが、航空写真や衛星画像では見分けがつきません。もし敵がこのような戦車を攻撃したり、そこに部隊を配置したりすれば、他の戦域における戦力を削ぐことができます」。
オールオアナッシング
複数の軍種や部隊が行動を共にする場合、CCDシステムを協調させることが重要です。1人の兵士、1つの部隊、1つのプラットフォームでもカモフラージュされていないものがあれば、結果的に作戦全体が危険にさらされる可能性があります。そのため、カモフラージュソリューションの柔軟性と適応性は、開発段階で既に重要な検討事項となっています。加えて、陸、空、海のそれぞれのユニット間の連携もますます重要になります。たとえば、ドイツのフラウンフォーファー研究所の研究者は現在、兵士の防御力を高めるために、航空偵察に基づく情報が地上部隊の迷彩服とどのように連携できるかについて研究しています。同研究所では、上空の航空偵察ユニットと地上部隊の迷彩服を繋ぐ情報通信システムの開発に取り組んでおり、これにより迷彩服のカラースペクトルやパターンを変更することで、上空を飛行するドローンの光学センサーに検知されないようにすることができます。Saabは、こういった研究にも多額の投資を行っています。すべてのCCD製品は有機的に発展を遂げており、そのペースは急速な技術革新によりさらに加速しています。高性能な最新型センサーに関する研究、ならびに顧客からのフィードバックは、Saabがあらゆるニーズとプラットフォームに対応した理想的なカモフラージュを設計するための研究活動に大きな影響を与えています。さらに、製品そのものと同じぐらい重要なのが教育訓練です。Barracuda Academyでは、お客様が自分たちのカモフラージュを継続的に最適化する目的で、独自のシグネチャ分析を活用する方法を学んでいます。Ålundは、「シグネチャが互いにどのように作用し、敵のセンサーに対してどのような影響を与えるかを理解している者だけが、CCDシステムの付加価値を十分に活用することができるのです」と述べています。
2023年の初めに、Saabはフランスの国防調達機関であるDGA(Direction Générale de l'Armement)とマルチスペクトル型Barracudaカモフラージュシステムの納入に関する新たな契約を締結しました。この契約には、フランス陸軍の作戦行動に最先端のCCDシステムを組み込むことに加え、Barracudaカモフラージュソリューションをフランス陸軍の作戦要件に合わせて特別に適合させる共同作業フェーズも含まれています。Saab Barracudaの戦略・事業開発担当ディレクターであるNiklas Ålundは、この重要性について次のように説明しています。「素材の開発が重要であることは疑いようがありませんが、最終的に最も重要なのは、それをいつ、どこで、どのような組み合わせで、どのように使用するのが最適かを把握することなのです。今後しばらくの間センサーの数が減ることはないでしょうから、マルチスペクトルカモフラージュの必要性が高まり続けることは明らかです」。
カモフラージュシステム
Saabは、あらゆる作戦シナリオに対応するカモフラージュソリューションを提供しています。当社のシステムは、どのような環境、車両、物体にも適合可能であり、それがミッションの成否を分けることになります。
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